掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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親友だと思っていた。高校帰り、彼女が彼と寄り添う姿を見るまでは。私たち3人は同じクラスだ。いつの間に、あれほど距離を縮めたのだろう。告白はしていない。でも十分匂わせた。頬を染め、彼女が彼にそっと俯く。立ち去りながら、涙を拭う。今日、親友を失った。結ばれることを切望していた親友を。

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娘に彼氏ができたらしい。「パパ、心配しすぎ。真面目だし、大事にしてくれてるもん」。お前と同じ高2だろ? お父さんも通ってきたからよくわかる。アレに関心ないわけない。「パパとは違うよ!」。じゃあ明日、うちに誘ってみろ。「……それはちょっと勇気がいるね」。大丈夫。明日は非番で在宅だ。

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「……うち、寄ってく?」。高校帰りに彼女が囁く。交際半年。まだキスまでの関係だ。ついにきたか、と唾を飲む。えっと、アレは財布に隠してあるよな。下着も今朝替えたばかりだ。「……覚悟あるよね?」。もちろんだ。将来結婚したいと思っている。「それ言ってね。今日、パパが休みで在宅なんだ♥」

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「もうすぐやむよ」。先輩に微笑まれる。傘を忘れ、高校の昇降口で雨を見ていた。彼方の空には薄日がさしてる。やみますかね、と囁きながら、やまないで、と心で願う。先輩、私、知っています。鞄に折り畳み傘を入れてること。勇気が出るまで5分下さい。私、言います。傘に入れてもらえませんか、と。

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後輩が秋雨を眺めていた。高校の昇降口。どうやら傘を忘れたらしい。「やみそうで、やみませんね」。遥か遠くの雲間から、夕暮れの陽の光がさしている。体温が伝わるほどの近距離で、もうすぐやむよ、と笑ってみせた。そして願う。もう少し、降り続いてくれますように。鞄の傘に気づかれませんように。

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初挑戦で小説賞を受賞した。リハビリがてら、高校時代の闘病と恋愛を文字にした。当時の彼は、二次創作をしてくれた。好きな作家の「未完の続き」に励まされた。受賞作の結末は脚色だ。私たちは結ばれず、卒業後、自然消滅してしまった。連絡先は残っている。彼に受賞を伝えたい。久々にスマホを握る。

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また小説賞の選に漏れる。受賞者に嫉妬して、酔って微睡み夢を見る。高校時代、当時の彼女が入院していた。「好きな作家の続編読みたい」。その一言で二次創作を始めたのがきっかけだった。読者は一人。喜ぶ顔が見たかった。目を覚ます。賞は結果だ。目的を忘れてた。まだ見ぬ読者のために言葉を紡ぐ。

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ひと気のない海沿いで、若い女性が車椅子を押している。座っているのは恋人だろう。仲良さそうだ。昔の自分と夫を思い出す。結婚後、夫は変わった。酒と女に溺れた末、体を壊す。「おい、もっとゆっくり押せ」。傲慢は歩けなくなっても変わらない。若い2人を見送って、夫ごと、車椅子を崖から落とす。

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海沿いで、車椅子を押す女性を見かける。座っているのは夫だろうか。きっと長年連れ添ったのだ。相手が体を壊しても、紡いだ愛は変わらない。2人の姿に自分を恥じる。愛するって、こういうことだね。「バイク事故は俺の責任。いいぞ、別れても」。寂しげに笑う彼に首を振り、私もそっと車椅子を押す。

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「体重か身長が増えたんだろ」と彼が笑う。同じ17歳の幼なじみ。衣替えした冬服で、春よりきつい、と私はぼやいた。興味なさげに俯いて、スマホで美少女ゲームをやろうとしている。ちょっと、どこが増えたかよく見なさいよ。ゲームより、リアルの方が絶対いいって。胸元を、片想いの彼の顔に近づける。

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