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結婚は7年で破綻した。几帳面な元妻とは些細な喧嘩が絶えなかった。同居も向こうが新居を決めるまで。日曜日、起きると彼女は外出中で、食器置き場もわからない。カップ麺を啜りながら、今さら気づく。こんなに彼女に支えられてた。久々に掃除機を握り締める。最後に彼女が笑顔で家を出られるように。
話し合って籍を抜く。夫とは結婚7年。毎日の小さな喧嘩にくたびれ果てた。私の新居が見つかるまで、「他人」になった元夫と一緒に暮らす。片づけないのも家事が不得手なのも、気にならない。そうか。「家族」だからこそ、あんなにイライラしてたんだ……。私は思う。少しだけ、物件探しを中断しよう。
夫が事故で急死した。少し前から女の影を感じてた。通夜で若い女性と視線が合う。この子だな、と直感する。香典袋の下の名を、ローマ字読みで夫のスマホに入力した。以前は私の名前だった。ロックが外れ、赤裸々な2人のLINEが露になる。私は画面をタップする。お話があります。まだ戻ってこれますか?
2年不倫していた係長が急死した。もう私は30歳近く。潮時だと諦めて、別れのLINEを送った直後の事故だった。通夜で喪服姿の奥さんに会釈する。終わりまでバレなかったのは幸いだった。斎場を出て、スマホを取り出す。最後のLINEが既読になった。そして新たにもう一通。「戻れますか? 話があります」
高1の妹がツイッターを見つめてた。推し絵師のイラストに心を奪われてる。「見てこのイケメン! 尊すぎてつきあいたい」。腐女子よ、どうか諦めろ。「わかってるよ。二次元だもんね」。それな、美大出で何でも描けるお袋の、秘密の創作垢の一つだぜ。付け加えると、モチーフはお前の兄貴の俺だから。
年子で高2のお兄ちゃんが、ツイッターにハマってる。主婦絵師の女子高生のイラストが、ど真ん中らしい。「めちゃめちゃ可愛い。結婚したい」とデレデレだ。うん、絶対無理だね。「わかってるさ。二次元だもんな」。それもある。でもね、その絵師さん、実はママなんだ。ついでにモデルは妹の私だから。
幼なじみが大学生の彼に振られた。ヒールを履いてカフェでデートしてると自慢してた。高校帰り、ラーメン店に彼女を誘う。「豚骨も餃子も好物だけど、ニンニク臭くなっちゃうよ」。なればいいさ。俺も同じだ。泣きながら彼女が麺をすすってる。次こそは、気兼ねなく好きな物を食える相手とつきあえよ。
高校の陸上部の後輩と、初めて2人で外出する。「見えてます!?」。ミニスカートの前後を押え、彼女がしきりに照れている。いや、長く伸びた両脚は、ユニホームで毎日見てる。だから、気になるのはブラウスなんだ。「え、何で?」。見慣れないからつい見ちゃう。胸のボタン、三つも開けるの反則だ……。
兄が死んだ。45歳だった。発病からわずか半年。最期は眠るように旅立った。発覚した20年前、両親には縁を切られた。「お前一人が送ってくれればそれでいい」。兄の言葉に私は従う。冷たくなった唇に、もう一度だけキスをして、棺を見送る。ねえ、お兄ちゃんは幸福だった? 私は心の底から幸せでした。