掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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全く不覚だ。弟みたいな幼なじみに恋をした。高校帰り「元気ねえな。白球叩いて吐き出しちゃえよ」とバッティングセンターに誘われる。いいの? 私、ソフト部四番だよ。勇気が出ず、緩い球を2球見送る。「今日は全部受け止めてやる」。言ったな、約束守れよ。3球目、バットの真芯でボールを捉える。

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男勝りの幼なじみが凹んでる。恋煩いらしいけど、はっきり言わない。高校帰り、バッティングセンターに誘い出す。ソフト部だから慣れたもんだろ。ボールを叩き、吐き出しちゃえ。「いいの? うざいよ?」。今日は全部受け止める。3球目で白球を弾き返し、彼女は叫ぶ。「あんたに惚れて不覚すぎる!」

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親友のような高校の同級生に告白された。どこがいいの、と彼女に訊くと「誰にでも優しいところ」。その言葉に縛られて、交際後も僕は態度を変えられず、男女問わずに優しく接した。最近彼女の元気がない。もう別れた方がいいのだろうか……。ごめん、僕の何が悪かった? 「……誰にでも優しいところ」

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高校の後輩と帰り道が一緒になった。真面目で元気な彼女のことが大好きだ。自販機で熱いお茶を買う。抽選でもう一本当たらないかな。夏にアイスを奢りかけ「お小遣いですよね? 貰えません」と断られた。クリスマスまであとわずか。半歩でも近づきたい。当たったものなら一緒に飲んでくれるだろうか。

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「飲み物買ってく」。高校の帰り道、部活の先輩が自販機に硬貨を入れた。温かいお茶のボタンを押すと、抽選機が動き出す。「当たれ当たれ」。お道化る彼を眺めつつ、外れるように、と私は願う。もう半年も片想い。クリスマス前にきっかけ下さい。例えば、一口飲ませてほしいです、みたいな自然なやつ。

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元彼と半年前に再会し、よりを戻す。今夜は大学時代の仲間との忘年会。照れ屋の彼に抜き打ちで、元サヤを発表し、求婚します、と宣言する。「求婚って……お前酔い過ぎだ」。彼が顔を赤らめる。ううん、一滴も飲んでない。「珍しいな」。昨日検査で知ったんだ。あと9か月、お酒を飲んじゃ駄目みたい。

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「重大発表です!」。彼女が急に手を挙げた。大学時代の仲間と久々の忘年会。冷やかされると面倒だから、黙ってようと言っただろ。「彼と半年前から元サヤで、この場を借りて求婚します!」。……後段は初耳だ。お前、相当酔ってるな。「もう一つ重大発表」。まだあるんだ。「今日は全く飲んでません」

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初めての彼女は高校の先輩だ。大好きで、キスの先までしたくなる。でも、女子には多分そんな欲はない。交際1年。堪えきれず、胸の辺りに触れてしまう。すいません……。詫びる僕を睨みつつ、そのまま手首を握られた。「謝らなきゃならないことしてるかな?」。制服越しに、先輩の速い鼓動が伝わった。

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「いい子だね」と溺愛されて育ってきた。親の愛情は真綿のように私を締める。いつしか笑顔だけが能面のように頭の上に乗っていた。思春期から、私は時々意識を失う。気づくと必ず頬が濡れていた。ある日、頭の中で少女の小さな嗚咽を聴く。あなたは誰? 「いい子じゃない、あなたが作ったあなただよ」

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可愛い笑顔のあの子のことが大嫌い。生家が幸せなんだろう。両親に叩かれながら私は育った。彼が彼女を見つめてる。奪わないで――。泣きながら叫んだところで、意識が途切れ、彼女は消えた。「どうした?」。彼が怪訝な顔を向ける。お願い、私だけを見て。「ああ。笑って泣いたお前だけしか見ていない」

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