掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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「ママは何もわかってない!」。高2の娘が部屋に籠る。「どうした?」と夫に訊かれた。彼に振られたらしいのよ。いつか忘れられる、と慰めたんだ。「忘れられはしないけど、過去にはできる、が正解だろ?」。……そうだった。私も17歳で失恋した。「俺と一緒に過去にしよう」。のちの夫に慰められた。

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高校帰り、幼なじみと俺の部屋でアニメを観た。キスシーンで想いが昂り、つい彼女に顔を寄せる。「……あんた、キスしたことある?」。俺はまだ。「私は最初じゃないんだけれど」。拗ねた声で囁かれる。え、誰と!? 中学まで遡り、思い浮かばない。保育園で小鳥みたいに俺としたのは、ノーカンだよな?

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「最初だろ? いいのか俺で」。幼なじみが囁いた。高校帰り、彼の家でアニメを観る。キスの場面でムードが高まり、手を握られた。あんたはキスの経験あるの? 「初めてだ」。私は手を振りほどく。私はね、最初じゃないの。忘れているなら絶対しない。思い出しなよ。5歳で触れるようなキスしたこと。

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後夜祭のフォークダンスで告白すると、願いが叶う――。高校の先輩から噂を聞いた。クラスの女子も同じらしい。「告るの? いたんだ、あんたにそんな人」。お前もか。誰だよ? 彼女は答えず、瞳を潤ませ立ち去った。前日に気づけてよかった。やっぱり俺はやめにする。叶うといいな。俺の恋敵への恋心。

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高校の夜の教室で、彼が外を眺めていた。後夜祭のフォークダンスが遠くに見える。ね、好きな子に、打ち明ける、って言ってたよね? 「お前こそ」。私はやめた。勝算ゼロと気づいたから。「俺も同じだ。臆病者だな、お互いに」。苦笑いする彼と並んで目を凝らす。どの子だろう。不戦敗の私のライバル。

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男が起きた。隣の女も目覚めてる。ベッドを見下ろす位置に浮かんだ私は、逃げて、と言った。男には私は見えず、囁きも届かない。「なあ、もう1回」。男が女にのしかかる。同じホテルの一室で、恋人を寝取られた。絶望し、私は自死した。逃げて。最中に、元カレ同様殺されちゃうよ。その女は壊れてる。

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深夜ベッドで目が覚める。ナンパされ、寂しくて、また流された。ホテルの暗い空間に、若い女が浮いている。多分霊だ。隣の男の元カノだろうか。声は聞こえず、唇に目を凝らす。「逃げて」と動いた。いつの間にか男の瞳が開いてる。「なあ、もう1回」。男は霊に気づかない。体重が深く私にのしかかる。

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今日の衣装は詰襟だった。AVの撮影現場で高校時代を思い出す。地味で真面目な後輩に、告られた。淡く惹かれていたからこそ、不良の俺が汚しちゃ駄目だと断った。今回の作品は「再現モノ」だ。新人女優の初体験を模倣する。後輩は今も真っすぐ生きてるだろうか。整形顔の女優を抱きつつ、思いを馳せる。

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3年ぶりの制服だ。AVの監督が「本物のJKみたい。デビュー作、再現モノで正解だった」と笑う。事前に訊かれて嘘ついた。不良だった先輩は、告った私を袖にした。中退後の行方は知らない。妄想の初体験を、人前で「再現」するのだ。「男優さん入ります」。胸が一層高鳴った。目の前に懐かしい顔がある。

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高校帰り、気の置けないクラスの女子を映画に誘う。「面白かった。お腹減ったね」。友だちだから食い気も気軽に言い合える。連れていかれた近くのカフェで「彼氏なんです。スイーツのカップル割、使えますよね?」。おいやめろ! 「平気。わからないって」。……馬鹿野郎。俺の気持ちが平気じゃない。

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