掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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同級生のカップルが経験した、と噂が流れる。「私たちもいつかそういうことをするんだろうね」。彼女が高校帰りに呟いた。まだ触れるようなキスしかしてない。「経験しても、こんな気持ちでいられるのかな」。ともに俯き、手を繋ぐ。ピュアな好意に満たされて、進みたいのにずっと足踏みしたくもなる。

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留学先で恋に落ちる。彼も日本からの留学生。その夜、私は吐き気をもよおし、お腹の命に気がついた。「話がある? 何?」。彼に問われ、明日の朝、直接会って伝えるよ、と返事した。高揚で寝つけずに、翌朝、私は寝坊する。急がなきゃ。もう彼はツインタワーに着いてるはずだ。今日は2001年9月11日。

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彼と喧嘩し、未婚の母のママに愚痴る。「別れるの?」。結婚するなら彼とかな、とは思ってる。「じゃ今夜謝りなさい」。明日でいいよ。ねえママ、今日は大事な誰かの命日なんでしょ? 「当たり前には明日はこない。留学先であなたを授かり、ママは学んだ」。首を捻ってスマホを握る。今日は9月11日。

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私を溺愛していた父のことを愛してた。10歳で父は病死し、心に深い穴があく。「今度は腹痛?」。診察室で医師が言う。高校生になった頃から多様な不調を訴えて、受診してきた。もたれた私を強く抱き「ごめん、病因特定できず」と父のような医師が囁く。私は刹那に満たされる。次は検尿に血を混ぜよう。

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今回は腹痛だった。その前は頭痛を訴え受診している。娘と同じぐらいの美少女が「きっと私も死ぬんです……」と診察室で涙を流す。幼い頃、少女は病気で実父を亡くした。医師として、手は尽くしてきた。でも病因を特定できない。同情し、医師失格だと自覚しつつ、もたれかかった少女の体を抱き締める。

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「希を季と間違いました」。委員会の後輩が、恥ずかしそうに俯いた。高校の後夜祭の看板造り。2人きりの作業中、はやる気持ちを必死でなだめる。後夜祭で打ち明けようと決めていた。彼女も同じ想いでいればいいな。「すいません。『季望』消します」。後輩がコピーの誤字をポスターカラーで塗り潰す。

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高校の後夜祭の看板造りを任される。委員会室に2人きり。「終わらねえな」。先輩がため息ついた。まだ3日ありますよ、と私は囁く。「そのコピー、字が違う」。先輩はまるで想いに気づいてくれない。終わらなきゃいいのにな、と切なく思い、わざとミスった「季望」の文字をポスターカラーで塗り潰す。

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高校帰り、同い年の美術教師に居酒屋へと誘われる。「悩みあるでしょ? 私、口は堅いよ」。サバサバ系の彼女に対し、部の教え子に惹かれてる、と漏らしてしまう。「それは我慢しないと懲戒だね」。だよな、と答えたあたりで酔い潰れた。目覚めると、ベッドの隣に微笑む彼女。「ね、私じゃダメかな?」

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「どうした? 珍しく元気ないな」。高校の放課後に、部活の顧問が私に尋ねる。何でもないです。「失恋とか?」。そうですよ。先生、責任とって下さい。「えっ……俺のせいなの?」。ほかに誰がいるんですか。本当に、気づかず婚約したんですね。ずっと好きだったんです。先生の婚約相手の美術の先生。

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高校の男の子はみんなシャイ。それでも1人、色々教えてくれる人がいる。控えめだけど優しくて、憧れた「日本人」って感じがする。クラスに加わり1か月、「交際し、独り占めしたい」と彼に言われた。交際に独り占め。えっと、どんな意味だっけ? 留学生の私に向かい彼が囁く。「……I love youです」

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