掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
novelup.plus/my/profile

フォロー数:10916 フォロワー数:14706

「おはよう」。高校の正門近く。僕を追い抜きながら彼女が笑う。咄嗟に返事を返せない。昨秋から1年つきあい、ともに価値観の違いを埋められなかった。友だちに戻ろう――最後は笑顔で言い合った。友だちなら、躊躇うのはおかしいな。大好きだった制服姿が遠ざかる。華奢な背に「おはよう」と挨拶する。

20 195

席に座った私の前に、制服の少女が押し込まれた。通学時間の満員電車。この人だ、と直感する。彼と同じ高校の、元カノだ。隣で眠る彼と私を一瞥し、黙って吊革を握っている。凛として美しく、なぜか涙を浮かべてた。――具合悪ければ席どうぞ。座れないと知りながら、醜い嫉妬を抑えきれずに声をかける。

16 136

朝寝坊し、一本遅い電車に乗った。目の前の席の2人に息を飲む。見知らぬ制服姿の美少女が、眠る元カレにもたれてた。――彼にはほかに好きな人ができた。そう感じ、半年前に別れを告げた。不覚にも涙が滲む。「具合悪そうですよ。席どうぞ」。敵わないな、性格までいいんだね……。私は黙って首を振る。

26 166

打ち明けた先輩が煮え切らない。担任に惹かれているからだ。8歳上で既婚だよ? 先生に呼び止められ、彼が笑顔で話してる。「君たちみたいに夫は高校の先輩でした」。綺麗だけれど嘘つきだ。卒アルで確かめた。旦那さん、後輩だったでしょ。怒りで顔が赤くなる。先生、もう年下は十分じゃないですか?

17 112

2色の上履きが廊下を駆けていく。赤は2年、緑は3年。こら走らない、と注意する。「先生、旦那さんもうちの高校出身なんだよね?」。緑の男子が笑顔で尋ねる。赤の女子は赤面した。自分たちの未来と重ねてるんだね。そうよ、彼も緑の靴を履いていた、と私は小さな嘘をつく。本当は、私が緑で彼は赤。

17 134

高2の秋、初めて後輩とつきあった。以来、交際相手は十指に余る。抱いた子はその数倍だ。1年前、同じ会社の彼女と出会う。いくら数を重ねても、満たされなかった心の隙間。恋愛の安らぎを、彼女は初めて教えてくれた。来春、僕らは夫婦になる。過去の相手に心で詫びて、巡り合えた幸せを噛み締める。

20 163

新入社員の指導役を任された。彼は学生気分が抜けきらず、TPOをわきまえられない。だけど私の課題に食らいつき、見違えるほど成長した。今日で私は寿退社。言い残したことは何かある? 「幸せになって下さい」。ごめんね、君の好意に気づいてた。飲み込んでくれてありがとう。最後の課題も花丸です。

23 190

先輩が寿退社する。入社から2年半、みっちり僕を鍛えてくれた。最終日、彼女の荷物を半分抱え、会社の前でタクシーを待つ。「教えたことを忘れるな」。先輩が笑ってる。僕は頷き、言葉を飲んだ。「大切なのはTPO」。先輩の口癖を思い出す。慶事だから笑顔で送ります。好きだったこの想いには蓋をして。

18 183

失恋した大学の女友達を慰める。「抱いて」とせがまれ応じてしまう。僕は深く後悔する。酔った彼女は元カレに僕を重ねただけだ。誰かの代わりでなく、僕だけを見てくれるだろうか。一か月距離を置き、想いを綴ったメールを送る。「ごめん二度と会わない」。彼女は答え、言葉を継いだ。「酔った時には」

11 151

彼氏がいると気づかずに、高校の後輩を好きになった。またやらかした、と自分に呆れる。察しが悪く、恋愛下手。腐れ縁の女友達に、つい弱音を吐いてしまう。「その不器用さも君の魅力の一つだよ」。そう笑い、彼女は少し涙ぐむ。何でお前が泣くんだよ。察せられずに困惑し、彼女の背中をポンポン叩く。

20 129