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視聴覚室で赤面する。高校の文化祭。彼がギター片手にオリジナル曲を歌い始めた。歌詞の中身がつきあう直前のエピソードそのままだ。サビは告白のあの場面。「愛してるの言葉に俺は黙って頷いた♪」。……ちょっと待て。なぜそこだけ捏造するんだ。涙ながらに告ったの、あんたのほうじゃなかったっけ?
高校の二つ先輩に告白された。躊躇いつつも私は頷く。思いを募らせていた半年後、先輩は事故死する。「知ってたよ、お前の気持ち」。薄く笑って旅立った。先輩の年子の弟に「焦らず思い出にしなよ」と慰められる。これは罰だ。頷いた本当の理由、近づきたかった好きな人。泣きながら、私は弟を諦める。
大学時代、小さな文学賞で佳作を貰い、この道で生きていくと中退した。「愛してるけど不安なの」。3年つきあい、未来を誓った彼女は去った。アルバイトで食いつなぎ、喪失感を文字に換える。あれから10年。僕は文学賞に選ばれた。あの愛と引き換えに、彼女が書かせてくれた「失恋」という名の小説で。
夏の初めに同級生とつきあい始めた。何度かデートしたけれど、まだ手を握られるまで。秋の高校の帰り道、彼とペットショップに立ち寄った。子猫を抱き、いつか2人で飼いたいね、と言ってみる。少しは未来を意識してくれたかな……。「飼わないよ」。そうなんだ。アレルギーは猫だよね? それとも私?
高校からの帰り道、彼女にせがまれペットショップに立ち寄った。触れますよ、と店員さん。喜ぶ彼女は可愛い子猫を抱き上げた。「いつかこんな子、飼えたらいいね」。やなこった。「え、猫アレルギーだったっけ?」。いや違う。俺だってまだなんだ。初恋相手の唇を、しれっと奪う雄猫なんて、許せない。
高校のロケ現場に幼なじみの演劇部長がやって来た。いや、ヒロイン、お前の後輩に頼んだんだけど。「映研部長の職権乱用阻止のため、私が代役務めます」。監督兼主演の僕は慌てて脚本を書き直す。「うん? 最後の抱擁場面、なくすんだ」。……それはカメラの前じゃなく、いつか2人でやりたいんだよ。
死ぬんだな、と私は思う。もう一週間も飲み食いしてない。両親と折り合わず、大卒後に実家を飛び出した。仕事は続かず、服薬し、布団に伏せる。高校時代を思い出す。彼とは短い交際だったけど、輝いてた10年前の宝物。ごめん、君の重荷になって。次に生まれ変われたら、あの時みたいに手首を切らない。
高校時代、彼女は何度か手首を切った。僕はその都度、抱き締める。見捨てない。そう約束したのに、やがて僕は疲れ切り、距離をおいた。あれから10年。久々に彼女の笑顔を見る。あの時、手を放すべきではなかったんだな……。秋空に白い煙が立ち上る。独居の自宅で孤独死していた、彼女の遺影に涙ぐむ。
体重計に青ざめる。3年前の結婚から5キロも増えた。秋のせいか、最近ますます食欲が止まらない。眠いし怠いし、不安になって受診する。その夜、帰宅した夫に「よく喰うね」と笑われた。いや、半分はあなたのせいでした。「俺の責任?」。うん。10か月後にはもっと責任重くなるよ。よろしくね、パパ。
よく喰うね、と苦笑する。食欲の秋とはいえ、妻がまたお菓子をつまんでる。結婚3年。最近、華奢な体は丸みを帯びた。「あなたのせいだ」と妻が笑う。いや自己責任だろ。「あなたのせい」。幸せ太り? それって夫がなるものでは? 「ううん、半分はあなたの責任よ。お腹の分まで2人分の食欲だもん」