掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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初めての感覚だった。昨春の入学式。彼女に一目で恋をした。先輩に失恋したのを慰めたのがきかっけで、距離が一気に近くなる。今や互いに一番身近な存在だ。高2の夏、意を決して聞いてみる。やっぱり彼氏が必要? 「ううん」と笑い、彼女は私の手を取った。「恋人は『彼氏』じゃなくてもいいんだね」

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彼女が好きでたまらない。高2の冬に打ち明けて、半年目。キスの少し先まで経験し、さらに想いが高まった。唇を這わせた鎖骨あたりを彼女が見る。「こら、休ませるつもりなの?」と叱られた。白い肌に薄っすらとキスの跡。ごめん、ほかの誰にもこの体を見られたくない。明日は体育の授業のプール開き。

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高校最後のプール開き。私は体育を欠席した。「アノ日かな?」。男子たちの内緒話が耳に入る。「やめろよ、そういうの」。制したのは半年前から密かに交際中の彼だった。「格好つけるなよ」と悪友たちは苦笑い。同感だ。知ってるものね、欠席理由。昨日、あなたがつけたキスマークが消えないからだよ。

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ごめん、母ちゃん! 寝ぼけて叫ぶ。高校の授業中に居眠りし、女教師に起こされた。「マザコン」と級友に笑われる。内緒で交際中の彼女も呆れ顔。必死に否定していると「じゃ何だ?」と悪友に追及される。言えねえよ。制服越しに彼女の胸に触れてると、母に自室に踏み込まれたーーそんな夢の中身まで。

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大学の男友達と映画を見る。この世の破滅を描いたSFだ。「明日世界が終わるなら何をする?」。観終わって、感化された彼が訊く。好きな人と一緒にいる、かな? 「え……メルヘンだな」。君はどうする? 「愛する人のために戦うさ」。メルヘンは拳を握る君も同じ。じゃあ私、その時には一緒に戦うよ。

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同級生の男子に告白され、初めて異性と交際した。何だか違う。そんな気持ちを拭えない。「あの人じゃないんだと思います」。同じ部活の後輩が、そう口にして、戸惑う私にキスをした。重ねられた唇の温かさと柔らかさ。私は違和感の正体に気づく。「先輩、私じゃ駄目ですか?」。囁く彼女を抱き締めた。

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「夜、そこの小川に蛍が出るんだって」。高1の初夏、同級生に誘われた。淡い光の乱舞に圧倒される。いつしか彼女と手をつないでいた。僕は恋心を打ち明ける。思い出を積み重ね始めた矢先、難病を告知された。病院の帰り道、闇に沈んだ小川を眺める。求愛した蛍の命はわずか。短い夏が終わりを迎える。

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淡い緑の光が舞った。高校の帰り道。夜の小川を蛍の明かりが照らしてる。初恋相手に告白されたのはここだった。晩秋、彼の病死で恋は終わる。あれから2年。手に降りた一匹が強く光って闇に溶けた。わかったよ。もう求愛しては駄目なんだね。涙を拭い私は呟く。心に灯るあなたを消し去る努力をするよ。

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会社の後輩と婚約し、遊び相手の女の子たちと手を切った。そのうち1人の友人が婚約者の知り合いだった。「学生時代はビッチだったって」。僕は笑って聞き流す。わかってるよ、それぐらい。あの子は僕にそっくりだ。だからこそ、変わろうと足掻く姿が愛おしい。心から愛せる人に巡り合い、僕も変わる。

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髪を切り、彼が必死で就活してる。同じ大学の軽音部。音楽で食べていくんじゃないの、と私は尋ねる。「夢追えないよ。お前と結婚したいもん」。私だって一生懸命就活してる。伝わらないね、その理由。夢見るあなたが好きなんだ。支えたい、一緒にいたいと思う気持ちが、デクレッシェンドで消えていく。

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