掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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「貧乏だけど一緒にいられて幸せだよ」。アパートで同棲中の彼女が笑う。絶対に成功しよう。ゲーム作家の卵の俺は心に誓う。寝る間も惜しみ働いて、会社を興し、小さなヒットを積み重ねる。もう半月も帰宅してない。会社の窓からタワマンの威容が見えた。結婚し、あのてっぺんに愛する人を連れていく。

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眼下に街が一望できる。タワマンの最上階。ふと20年前を思い出す。ぼろアパートで同棲していた。ゲーム作家の卵の彼は「絶対ヒットを飛ばすんだ」と夢を語った。私もパートで彼を支えた。幸せだった。あの人は、一体どこに消えたのだろう。売れっ子のゲーム作家の夫とは、もう話す言葉も見つからない。

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「私が代わりじゃダメですか?」。高校の同級生に振られた僕を、後輩が慰める。お前は妹みたいなものだから、と返事した。「先輩は妹を抱いたんですか」と後輩が苦笑している。1年前まで元カノだった。今さらずるいぞ。さめたお前の別れの言葉を忘れない。「先輩は、やっぱりお兄ちゃんみたいでした」

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先輩が同級生の彼女に振られた。高校帰りの公園で、並んで座り慰める。ね、先輩。私が代わりじゃダメですか? 「……お前は妹みたいなものだから」。そっと頭を撫でられて、ずるいなあ、と私は思う。1年前までそんなふうには言われなかった。もう忘れちゃったんですか? 私、元カノですよ、先輩の。

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女子大を卒業直前、同級生の彼女と別れた。「私は何をあげられなかった?」。彼女に訊かれ答えなかった。手を繋ぐ幼女が笑う。今暮らしているのも同性で、私と同じ両性愛者。バツイチだから、この子は連れ子だ。2人とも私だけを愛してくれる。繰り返し、同級生は浮気していた。ほしかったのは純愛だ。

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人込みに彼女を見た。女子大以来だ。「ほしいものが手に入らない」。卒業直前、泣きながら私に告げて、彼女は消えた。バイの彼女を好きだった。彼女も私を愛してた。何をあげられなかったのだろう。喉に刺さった小骨のように、ずっと気になり続けていた。そういうことか。彼女が幼女と手を繋いでいる。

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「お前が彼女? ブスが身のほど知れよ」。待機時間にうたた寝し、また同じ夢を見る。同級生との初体験。やり捨てられて私は病んだ。高卒後、整形を繰り返す。別人みたいに綺麗になったが、借金と復讐心は膨れたままだ。個室に客が入ってきた。神様はいるんだな。風俗嬢の私の前に、懐かしい顔がある。

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指名なしの風俗で、俺好みの嬢と会う。「こんなお店に来なくても、お客さん、モテそうなのに」。まあな。高校以来、安い女を山ほど喰い捨ててきた。「悪い人」。体を流す風俗嬢が、カミソリを手に微笑んでいる。髭も剃ってくれるのか。目を閉じる。この女を知ってるように感じるのは、多分気のせいだ。

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高校の一学期、隣のあいつに筆記用具を何度も借りた。呆れられ、僕の好意は伝わらない。二学期の席替えで、彼女は後ろ側の席になる。消しゴムが見つからない。隣の女子に借りかけた時、机に何かが飛んできた。振り向くと、また彼女が呆れてる。消しゴムだった。「もう忘れ物しちゃイヤ」と書かれてる。

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高校の二学期の席替えで、あいつより席が後ろになる。せいせいだ。筆記用具を何度貸したかわからない。今度の隣は学年一の美少女か。……へぇ、よかったね。授業中、また彼が筆箱をまさぐっている。隣の女子に借りようとしたその瞬間、消しゴムを放り投げた。私が貸すよ。もう絶対、忘れ物しちゃイヤ。

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