掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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そのうち見捨てられると自覚している。なのに今夜も香水の匂いを残したまま、彼女の家を訪れた。案の定、浮気に気づかぬふりをして「バイトお疲れ」と微笑まれる。自分は単なる空虚なクズだ。否定の言葉を期待して、彼女を傷つけ、自己嫌悪をこじらせる。本当は愛されたい。僕は泣きながら彼女を抱く。

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「バイトで遅くなる」とLINEがあった。自室で独り苦笑する。気づいているよ、あなたの浮気。最低だけど、それでも深夜、「お前が必要」と抱くんだね。私、最近、ほかに気づいたことがあるんだよ。本当に最低なのは、自分のほうだ。私が必要としているの、あなたですらなく「必要とされる」ことみたい。

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元カノが転校する。半年前、些細な喧嘩で引けなくなり、1年で破局した。同じ高校、同じ部活。以来、距離を測れず戸惑ってきた。最終日、「遠くなるからせいせいでしょ」と笑われる。お前みたいに割り切れないんだ。彼女は俯き、小さな紙片を握らせた。「新住所。せめて心の距離だけ縮められないかな」

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同棲中の彼女は今日も朝帰り。「もうやめる。絶対やめる」と繰り返し、ベッドに倒れて寝落ちした。アルコールの匂いを感じつつ、僕は思う。お前はきっとやめないよ。そういうヤツだもの。僕はしばらく我慢する。せめて体にだけは気をつけろ。ありがとう、消毒液が染みこむまでに働きづめの看護師さん。

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同棲中の彼が髪を洗ってくれる。一緒のお風呂は久々だ。指が優しく頭皮を撫でる。その感触に恋が始まった5年前を思い出した。毎夜激しく抱き合った。いつ頃からだろう。互いに求めることもなくなったのは。今や情だけがぽつんと残る。明日の休日、この関係を終わらせる言葉を言おう。さようなら、と。

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鮮明に嫌だと感じた。2年前、中学からの帰り道。兄が同じ制服の女子と話しているのを見かけた時だ。その直後、私は偶然知ってしまう。母が幼児の私を連れて、三つ上の男の子の父親と再婚していた過去を。兄は気づいているのかな。私たち、血が繋がってないんだよ。何よりも、溢れ出そうなこの想いに。

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「もう起きなよ」。布団越しに重みを感じ目を開く。休日の朝。17歳の妹が、ちょこんと上に乗っていた。まだ眠いと偽って、布団に潜る。「兄貴に彼女ができないの、こういうところだよ」と呆れた声。お前はなんにもわかってない。自分の魅力も、2歳で継母が連れてきて、兄とは血の繋がりがないことも。

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あいつは本当に無防備すぎる。園児の頃から一緒だけれど、お互いもう16歳。なのに今日も俺のベッドに寝転んで、笑って漫画を読んでいる。最近、俺の調子が悪い訳、わかっているか。「厨二病でもこじらせた?」。馬鹿たれが。もっとずっと重症だ。「だったら何よ?」。失いたくない幼なじみへの恋の病。

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「花屋つきあって」と彼が言う。恋人未満の男友達。母の日に花を贈るそうだ。恥ずかしがるようなものでもないし、カーネーション一択でしょ。会計を済ませた彼が、店内を眺める私に呟く。「君はそれが好きなんだ」。ガーベラね。うん、そうだけど。7日後の私の誕生日、黄色いサプライズが待っていた。

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同級生の男の子に「英語のノートを写させて」とせがまれた。高1で知り合い、進級しても片思いが続いてる。中間試験の前夜、彼からLINEが届く。添付の写真はノートのコピー。「ここだけわからないので、明日教えて」。私は顔を赤くする。落書きを消し忘れていたよ。ノートの隅に10回書いた"I Love You"

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