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県大会は3回戦で敗退した。最後の夏も甲子園は遠かった。吹奏楽部の同級生に頭を下げる。ごめん、約束を果たせずに。「本当だよ」。想いを伝える機会さえ、なくしてしまった。「甲子園に連れてって」。だからもう無理だろう? 少し照れ、彼女は僕に囁いた。「夏休み、こっそり行こうよ、2人きりで」
大学時代、小さな文学賞で佳作を取る。筆一本で生きていく、と中退した。「好きだけど不安なの」。3年つきあい、未来を誓った彼女は消えた。バイトでしのぎ、喪失感を文字に換える。10年後、僕は文学賞に選ばれた。失わなければ得られなかった。あの日の彼女が書かせてくれた受賞作。題名は『失恋』。
「この小説を書かせてくれた人に感謝します」。テレビで懐かしい顔を見る。文学賞の授賞式。彼は大学時代の恋人だった。在学中に小さな賞で佳作をとり、「小説で食べていく」と中退した。あの時、彼を信じられなかった。明日から私は産休だ。10年ぶりに彼の物語を読んでみよう。『失恋』という題名の。
「読んじゃ駄目」。文芸部の彼女は言った。そう言われると気になって、高校の文化祭でこっそり彼女の部誌を読む。うわ、これ私小説だ。俺が涙ながらに告ったことまで書いてある。「交際一か月、彼は少し強引に私の唇を奪った」。……待て待て。なぜここだけ違うんだ。不意打ちしたの、お前じゃないか?
視聴覚室で赤面する。高校の文化祭。彼がギター片手にオリジナル曲を歌い始めた。歌詞がそのままつきあうまでのやり取りだ。サビは打ち明けたあの場面。「愛してます その言葉に俺は黙って頷いた♪」。……ちょっと待て。どうしてそこだけ捏造するのよ。涙ながらに告ったの、君の方じゃなかったっけ?
体重計に青ざめる。3年前の結婚から5キロも増えた。夏なのになぜか食欲が止まらない。怠いし眠気も強い。不安になって受診する。その夜、夫が帰宅し「またお菓子? よく喰うな」と笑われた。半分はあなたのせいよ。「体重は自己責任だろ」。ううん。来年はもっと責任重くなるからね。よろしくパパ。
よく喰うね、と苦笑した。妻がまたお菓子をつまみ、寝転んでる。結婚3年。最近、華奢な体は丸みを帯びた。「あなたのせいだ」と妻が笑う。いや自己責任だろ。「あなたのせい」。ああ、幸せ太り? でもそれって夫がなるものでは? 「ううん、半分はあなたの責任よ。お腹の分まで2人分の食欲だもん」
同級生が彼になる。高校帰り、彼とペットショップに立ち寄った。仔猫を抱え、いつか2人で飼いたいね、と言ってみる。何度かデートはしたけれど、まだ手を繋ぐまで。ちょっとは先に進みたい。未来を意識してくれたかな。「飼わないよ」。そうなんだ。……あのさ、アレルギーは猫だよね? それとも私?
高校の帰り道、彼女にせがまれペットショップに立ち寄った。触れますよ、と店員さん。彼女は喜び、可愛い仔猫を顔の前に持ち上げた。「いつか一緒に飼えたらいいね」。やなこった。「え、猫アレルギーだったっけ?」。いや違う。俺だってまだじゃんか。初カノの唇をしれっと奪う、そんな雄猫許せない。
高校のロケ現場に、幼なじみの演劇部長が現れた。いや、ヒロイン、お前の後輩に頼んだんだけど。「映研部長の職権乱用阻止のため、私が代役務めます」。監督兼主演の僕は慌ててペンを走らせる。「え? 脚本から最後の抱擁場面、削るんだ」。……それはカメラの前じゃなく、いつか2人でやりたいんだ。