掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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「パパと一緒になって良かったことある?」。高校生の娘が尋ねる。もう随分と喧嘩が絶えない。婚前に、同じだと感じていた価値観も、ズレている。答えに詰まり、娘を見つめる。そうか、一つだけ良かったと思えることがあるよ。「なあにママ?」。パパと結婚しなければ、愛するあなたと出会えなかった。

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「もっとゆっくりしていけよ」。ベッドから大学の同級生の彼が言う。半年前、お互い別の相手に失恋した。慰め合って重なったのが始まりだ。体だけの約束だよね? そう言って、急いで服を身に纏い、ワンルームを後にする。こんな顔を見せられない。帰り道、好きな思いが込み上げて、私は独り涙を拭う。

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彼女がすぐに衣服を纏う。もっとゆっくりしていけよ。「ヤッたら帰る。そういう関係だって、言い合ったよね?」。彼女は笑って振り向かず、ワンルームを出て行った。大学の同級生。半年前、失恋時期が重なって、お互い傷を舐めあった。僕はベッドで涙ぐむ。いつからだろう。あの時よりもずっと苦しい。

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あいつマジか。高2の夏休み、街で男連れの彼女と出くわす。まだ交際3か月。終業式の日に口喧嘩し、以来音信不通が続いてる。俺は隣の女子の肩を抱き、無言で彼女とすれ違った。「別れたくないくせに」。手を振りほどき、笑う女子にたしなめられる。「謝るならお早目に。手遅れになるよ、お兄ちゃん」

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あの野郎、と睨みつける。街で彼が可愛い少女といるのを見かけた。つきあって3か月。高校の夏休み直前に、些細なことで口論した。以来絶交中だ。彼も私に気がついた。隣の男子に腕を絡めてすれ違う。もう手遅れなのかな、仲直り……。「そう思うなら腕離せ」。一つ下の弟に、苦笑いでたしなめられる。

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彼の親友宅で家飲みした。酔っ払い、彼は眠りに落ちている。親友が、私を抱き寄せ口づけた。「大丈夫。あいつ、よく寝ているさ」。いっそ気づいてほしいと私は思う。彼も好きだが、その親友にも惹かれている。唇を重ねながら、薄闇に目を開く。彼の背中が恨めしい。弱い私は自分で相手を決められない。

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日替わりみたいに女を抱くたび、空虚を感じた。春、大学で彼女ができる。無垢で清楚。心を愛してくれると僕は感じた。夏に初めて結ばれる。「……ね、もう一度」。経験のなかった彼女が、何度も僕を求め出す。喘ぐ声を聞きながら、気づかされた。僕は抱いてきたんじゃない。女たちに抱かれてきたんだ。

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大学2年の春、初めての彼ができた。遊園地や映画館、洒落たカフェ。楽しいけれど、同性の友だちでも替えがきく。夏休み、私は自分の業の深さに気がついた。彼がうちのベッドで目を覚ます。「えっ朝も?」。はにかんで、私は頷き、そのまま彼に重なった。覚えたてのこれだけは、同性では代替できない。

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中距離走の自主練を春から始めた。折り返しの公園で、いつも彼女の姿を見かける。多分同じ高校生のランナーだ。夏の朝、荒い息で水を飲んでる。その姿は美しく、僕は自分の好意に気づかされる。タオル落としたよ――。思い切って声をかけた。僕を見つめ、少しはにかみ彼女が囁く。「私も今気づきました」

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シューズの紐をぎゅっと結ぶ。失恋したこんな朝こそ日課をこなそう。片想いの先輩のLINEは消した。朝焼けの茜色、道端の花や草木。17歳の私の周りの素敵なものが、また少し見えてきた。5キロ走り公園で水を飲む。「落としたぜ」と男の子。同世代で顔見知りのランナーだ。笑顔でタオルを拾ってくれた。

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