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デートのお化け屋敷は怖かった。「臆病だなあ」と彼が笑う。よく言うよ。「冷やかされるから高校では交際内緒な」と頼んでるくせに。おかげで昨日は大変だった。「何が?」。人気のバスケ部主将に告られたのよ。「え、答えは何て!?」。青ざめ震えた彼の手をとり、私は囁く。しばらく教えてあげません。
「ガチのやつだ」。お化け屋敷を出たところで、震えながら彼女は言った。臆病だなあ、と僕は笑う。交際半年。彼女は不満みたいだけれど、気恥ずかしくて高校では内緒のままだ。「じゃ、臆病者が本当に怖い話をするね」と彼女が囁く。平気だよ。強心臓には自信がある。「昨日、バスケ部主将に告られた」
二つ上のお兄ちゃんが大好きだ。小さい頃からどこにでもついて行った。高2の初夏「もう彼氏つくれ」と笑われた。うん、と答え、悟られぬよう涙ぐむ。わかってる。今の私の感情は、慕う幼児のままじゃない。こっちが一歩踏み出せば、そこは地獄だ。断ち切ろう。その夜、告白されてた先輩に、私は頷く。
自宅近くの公園で、妹がキスしていた。最近できた恋人だろう。昔から二つ上の僕に懐き、どこにでもついてきた。もう17歳、彼氏つくれよーー。夏の初めに笑って告げると、潤んだ瞳で「そうするね」と呟いた。促したのは僕だけど、実際見ると、何だか切ない。無垢で無邪気な妹が、女の子に変わっていく。
高校の先輩から、読書感想文で相談される。主人公を想うからこそ告白できないヒロインの、気持ちがわからないそうだ。私はため息交じりに苦笑した。察することが苦手なのは知っている。ねえ、先輩。読書でそういう感覚磨いて下さい。好きなのに、打ち明けられないリアルな女子、すぐ近くにいませんか?
高校の読書感想文に頭を抱える。主人公を好きなのに、なぜヒロインは告らねえんだ? 「好きだからこそ、ですよ」。助けを求めた読書好きの後輩に笑われた。そういうものか。「身近に覚えないですか?」。うーん、ねえな。後輩がため息ついて僕を見る。「気づかないと、赤点よりも後悔すると思います」
娘が離婚し孫と一緒に戻ってくる。俺は一瞬躊躇った。秘密だが、娘とは血が繋がらない。幼女を連れた亡妻と、俺は初婚で一緒になった。「私とあなたも血縁なんてなかったじゃない」。仏壇の妻が笑ってる。俺たちは、それでも確かに家族になった。疲れた娘に腹一杯メシを食わせよう。二合分の米を研ぐ。
結婚は10年で破綻した。乳飲み子を連れ実家に戻る。「誰に似たのか、堪え性のない娘だ」。父が苦笑し迎えてくれた。仏壇の母に手を合わせる。思い出したよ、お母さん。記憶は曖昧だったけど、幼い私は手を引かれ、この家にやってきた。私はお母さんに似たんだね。血の繋がらない父を好きなところまで。
着信番号に驚いた。7年前まで交際し、結婚も考えた元カノだ。破局後は音信不通。躊躇いつつもスマホを握る。マイクからは男児の声。そうか、ママになったんだ。誤操作らしく、無言で切れ、僕は迂闊に涙ぐむ。「パパ泣いてるの?」。幼い娘が小首を傾げた。涙を拭い僕は思う。この宝物を大事にしよう。
7年前、プロポーズに躊躇した。彼のことは好きだった。でもまだ若い、と感じてしまった。スマホを握る。ずっと消せない番号を、憑かれたようにタップした。「もしもし?」。彼の声の背後から「パパ誰?」と幼女の声。無言で切って涙ぐむ。「ママ平気?」。幼い息子の手を握り、今を生きると心に誓う。