掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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3年経って足を運べた。彼女の職場の雑居ビル。あの夜、残業時間に彼女は落ちた。事故か自殺かわからない。生前時々、この屋上で休憩していたらしい。柵越しに地上を見下ろす。何もない。天を仰ぐと少し離れたホテルが見えた。窓辺には半裸で寄り添う若い男女。まるで、あの日の僕と浮気相手みたいだ。

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イケメンの先輩が、職場で仕事を教えてくれる。向かいの席から視線を感じた。先輩と同期の綺麗な女性だ。私は今年の新人女子で、2人の5期下になる。直感を確かめたくて、何度か仕事を習うふりをした。黙ってますけど、やっぱ2人は恋人ですね。去り際に、諦めません、と私は囁く。好きです、貴女を。

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「先輩、仕事教えて下さいよぉ」。新人ちゃんがまた彼の隣にやってくる。向かいの席から書類越しに様子を眺めた。彼とは同期。社内では交際を秘密にしている。デレた彼をそっと睨むと、新人ちゃんに気づかれた。「へぇ……。でも私、諦めないです」。ゆるふわロリの新人ちゃんが、さとい女の顔になる。

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浮気性を疑われ、振られた彼女に未練がある。高校の同級女子に相談した。昔SNSに、元サヤ成功と書いていた。「元カレにLINE送って距離縮めた」。元カノは彼女と同じ今日の生まれ。おめでとう、と元カノに送信すると既読がつく。時間をおき、好きだと送るが既読にならない。もうブロックされたらしい。

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浮気性の彼と別れた。最近、高校の別の女子と仲良さげだ。胸の痛みで自分の未練に気づかされる。その夜、彼からLINEが届く。破局以来だ。「おめでとう」。まだ好きでいてくれるのかな。あの子とはどうするんだろ。SNSの彼女のアカウントを覗いてみる。何だ誤爆か。同じなんだね、私とあの子の誕生日。

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「君、昨夜マグロだったじゃない」。大学で彼女に小声でたしなめられる。さっき仲間もいる前で、腰が痛いとこぼしてしまった。交際2年。最近彼女は積極的だ。確かに昨夜の僕はマグロだった。終えた後、彼女は深く眠りに落ち、ベッドからも落っこちた。覚えてないんだ。抱え上げ、僕が腰を痛めたこと❤

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大学の学食で、彼や仲間とランチを食べる。交際2年。大学でも公認だ。不意に「痛たた」と顔をしかめ、彼が腰をさすり出す。どうした、と仲間の声。「腰を使い過ぎちゃって」。私の顔をチラ見して、みんなが笑いを噛み殺す。やめてよ、誤解されるでしょ。だって君、昨夜ほとんどマグロだったじゃない❤

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淡い光が明滅した。「お前が求愛してくれてるみたいだ」。暗闇に彼の声がする。2年前、高1の初夏、2人で蛍を探しに来た。足を滑らせ小川に落ちた。光に私を重ねてるんだね。あの時、確かに想い合っていた。でもあれは私じゃないよ。蛍はほとんど雄が光るんだ。独り死に、私に未練を残した君の光だ。

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高校近くで光が舞った。「今年も出たね」と彼女が囁く。不規則に揺れながら、一筋の淡い光が初夏の夜陰を裂いていく。手を握ろうとして思い留まる。もう2年も過ぎたのに、まだ彼女は縛られてるのだ。あの夏、蛍を探しに来た。僕らは足を滑らせ小川に落ちた。その輝きは蛍じゃない。死んだ君の人魂だ。

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彼女との同棲を解消した。休みの日、部屋で瓶ビールのプルを引く。2人の好みの銘柄だった。同棲当初、ささやかな幸せを見つけては、毎夜のように乾杯した。いつからだろう。お互いに独りの酒が増えたのは。今日のビールはやけに苦い。もう銘柄を変えるべきだね。2人とも、また新しい幸福を探すため。

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