掌編小説（140字）＠単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ

夫が過労で離職した。５年ぶりに主婦からSEの現場に戻る。家に帰ると夫が娘と風呂から出てきた。「お帰り。夕飯できてるよ」。３人で食卓を囲みながら私は思う。結婚の幸せを優先したいと会社を辞めた。今、主婦と同じぐらい仕事が楽しい。家か職かじゃないんだね。支え合える関係性こそ結婚の幸せだ。

「借り物競争、１等ならキスしてあげる」。高校の体育祭で同級女子に囁かれる。メモを開くと「好きな人」。彼女の前を通り過ぎ、一つ下の子の手を握る。ゴール手前で躓いた。「わざとでしょ」と笑われる。ああそうだ、好きな女子にはちゃんと告って手を繋ぎ、キスしたい。「ホント不器用、お兄ちゃん」

１等ならキスしてあげる、と腐れ縁の男子に囁く。高校の体育祭。密かに委員に仕込みを聞いてた。号砲で、彼は飛び出し、私の横を通り過ぎる。後輩の見知らぬ少女の手を握り、ゴール直前躓いた。２等で良かった。そういう人がいるのなら、キスしちゃダメだね……。借り物競争、今年のお題は「好きな人」

GWを大学同期の彼女と過ごす。ともに地方出身者。「最終日までどこにもいかなかったね」と彼女が笑う。２人とも初めてで、ずっと僕のベッドで過ごしてしまった。いや、僕はいったよ、何度もね。「下ネタじゃない！」。膨れた彼女が頬を染める。「……あのさ、そろそろ私もご一緒させてほしいんだけど」

「結局、何もしなかったな」。GW最終日、彼が頭を掻いている。大学同期で交際２か月。お互いに帰郷せず、彼の部屋に引き籠った。でもその言い方には語弊があるよ。「え、何で？」。尋ねる彼に口づけた。そのままベッドに押し倒される。私は初めてだったんだ。したじゃない、何度も何度もこういうこと❤

高校で幼なじみが急に綺麗になる。イケメンと一緒にいるのも何度か見た。「嫉妬？　あんたも下ネタやめればモテるかもよ」。笑った彼女が顔をしかめた。どこか痛えの？　「大丈夫。女の子の日」と囁かれる。え、お前もう経験済みかよ!?　「本当馬鹿。それは女になる日だ。鈍い誰かのためにとってある」

GWも14歳の幼なじみが拗らせてる。「ティーバッグってエロすぎる」。ただの紅茶よ。「つゆだくに悶絶しそうだ」。それ牛丼だよね。何でもそっちに脳内変換。失笑しお腹が痛い。「女の子の日か？」。本当に馬鹿。今日は端午の節句なのに、祝える成長してないね。「……いや、男の子の日は去年迎えたぞ」

「ママ、スマホがない！」。デート直前、娘が焦る。遠い昔を思い出す。私はよく待ち合わせ場所を間違えた。交際相手も遅刻魔だった。今みたくスマホがあれば、とのちに思う。探しておくよ、と娘を送り考え直す。すれ違うたび直接喧嘩し、仲直りして、仲を深めた。スマホがあったら多分娘は存在しない。

デートから帰宅した。「机の下にスマホあった」とママが笑う。ない、と出がけに青ざめた。愛する彼と写真が撮れない、行き帰りにLINEもできない。見つからず、時間切れで家を出た。「１日ぐらいなくても平気だったでしょ？」。……うん。じっくり話せ顔も見られた。依存してたよ。彼よりも、スマホに。

また彼がバイト先にやってきた。バーガーセットを注文し、独りポツンと食べている。大学同期で交際２年。「あれ彼氏？　遊んであげなきゃ振られるぞ」。イケメンで年上のマネジャーに笑われる。淡く惹かれてシフトを詰めた。浮気心が恥ずかしい。心で詫びて彼に囁く。追加でスマイル０円いかがですか？