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「今年も25日にまとめてお祝い」とママが言う。うん、いいよ。「あら、拗ねないんだ」。去年までなら拗ねていた。ほかの子は2回楽しいことがあるのにな、って。ねえママ、聖夜には家族みんながそろうんだよね? 代わりにイヴの遅い帰りを許してほしい。24日は誕生日。高2の冬、初めての彼ができた。
流石に今夜は定時だろう。結婚から35年。今日夫が定年する。ずっと多忙で、巣立った息子も独りで育てた。家族のためだとわかっている。だから全部飲み込んで、労うのだ。好物の魚の煮つけがそろそろできる。「メシいらない」。スマホの画面にLINEの通知。ガスを止め、実家に向かう最終電車を検索する。
花束を贈られ会社を出る。40年間働き続けた。バブル崩壊、金融危機、パンデミック……。そのつど歯を食いしばり乗り越えた。子どもは巣立ち、余生は妻とのんびりだ。内緒で温泉宿は予約してある。好物のケーキも買って帰ろう。その前に自分へのご褒美だ。メシいらない、と送ったLINEが既読にならない。
「お前やっぱ変態だな」。ベッドで彼が囁いた。中学からもう7年も交際している。バイト先の人妻を抱いた手で、私をまさぐる彼に答える。うん変態だ。でもあなたも私以上に興奮してない? 「歪んだ似た者同士か」。マンネリで、先日、私が持ちかけた。人妻を彼が寝取ること。私がその夫を寝取ること。
パート先の大学生に溺愛される。優しくてイケメンだ。同い年の彼女がいるのに、私のどこがいいのだろう? 「美しさと包容力です」。貪るように貫かれ、恍惚感に身をよじる。夫とはもう何年もしていない。あの人は「男」でいたかったんだ。「女」として深く満たされ、私は思う。夫の不倫に目を瞑ろう。
高2の冬、幼なじみが彼氏になった。「……イヴにお泊りするか?」と囁かれる。気心知れてるからって急ぎすぎ。「だよな。春休み頃まで待たなきゃな」。それも早い。「夏は?」。同じだよ。「じゃ、いつ?」。10年は待ってほしい。うちが敬虔なクリスチャンって知ってるよね? 捧げるの、結婚初夜だ。
「教会行きたい」。17歳の幼なじみが囁いた。教会? ああ今月のクリスマスか。お前、クリスチャンだもんな。「聖夜じゃないよ。その日は別の人と一緒だし」。……そういう相手ができたのか。ならば俺を誘うなよ。「これ告白なんですが」。え? 「聖夜は家族と過ごすけど、いつか行きたい、結婚式で」
病床から廊下を歩く彼が見えた。毎週誰かを見舞ってる。10代で私は病魔に侵された。彼を見るのが唯一の希望だ。「奇跡の快復。退院です」と医者が言う。翌週、病院の出入り口で彼を待つ。現れない。告白の言葉を考えつつ、浮ついた自分を諫める。同じ階の病室で、退院日にも誰かが死んだと聞いたから。
曾祖母を毎週見舞う。同じ階の病室で、少しあいた扉の向こうに少女が見えた。一瞬目があい可愛い笑顔で会釈される。「楽しい人生だった。あなたも悔いなく生きなさい」。半年後、曾祖母は大往生した。そうだね、僕も勇気を奮ってみる。告白しようと部屋を覗く。看護師が、少女のベッドを片づけている。
勤務先の先輩が、居酒屋で酔い潰れる。バリキャリなのに片想いで辛いらしい。肩を支えてうちまで運ぶと、ソファに寝転び体を丸める。いいですよ、ベッドのシェアで。「……私の指向、同性なのよ。好きな子を襲わないでいる自信がない」。驚いて、私はソファに身を寄せる。あの、実は私も百合なんです。