掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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初詣、新婚の妻が手を合わせる。なに一生懸命祈ってたの? 「ずっと2人でいたい、って」と照れ臭そうに微笑んだ。「ねえ、あなたも同じお願いだよね?」。幸せが続くようにと僕も祈った。でも、ちょっとだけ違うんだ。「え、どこが?」。今夜ベッドで伝えるよ。3人でもっと幸せになりたいんだって。

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ずっと2人で一緒にいたい――。前回の初詣で私は願った。隣には新婚の夫がいた。大晦日、神社の前の駐車場。車中で私は下を向く。1年足らずの出来事は、祈りを超えた展開だった。セーターをたくし上げ、ブラを外す。「嫉妬するよ」と夫が呟く。うちの家族の3人目、愛する息子が元気に胸を吸っている。

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誘った花屋で幼なじみが薔薇に触れ、指先に血を滲ませた。20歳で処女の生き血を吸うと恋の願いが叶うんだ、と言ってみる。「好きな子いるのに中二病だね。でもまあ、いいよ」と指を向ける。2年前、先輩と経験したこと知ってるぞ。拗らせはお前も同じ。僕は薔薇を贈るから、意地悪せずにそっちも告れ。

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幼なじみに花屋へと誘われた。薔薇に触れ指先に血が滲む。彼が真顔で「舐めていい?」。20歳で処女の生き血を吸うと、恋の願いが叶うそうだ。そういう相手がいるのなら、まず中二病を治しなよ。まあいいや、舐めるの許可。「ってことは?」。内緒だけど18歳で先輩と経験した。今は君の恋を阻止したい。

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何度か激しく喧嘩した。記念日にすら仕事で帰ってこない。別れも頭をかすめたけれど、寝顔を見つめ踏み止まる。やっぱり彼が好きなのだ。好物の肴を作り、ビールを注ぐ。よくむずかってた一人娘は嫁いでいった。夫は働き過ぎで少し早めに退職する。今度は余生。2人だけの生活が、25年ぶりに再開した。

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一つ屋根の下に2人きり。緊張を気取られるのは男がすたる。平然と、彼女はハミングしながら台所に立っていた。何を話せばいいのだろう。「この先、ずっと2人だね」。小鉢を置いて、彼女が微笑む。照れ臭く、愛していると口にできない。昨日、一人娘が嫁いでいった。25年ぶりに妻と2人の夜が更ける。

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年明け彼と結婚する。高校の先輩で、お互い大学時代につきあい始めた。「来年の年末も、夫婦2人で仲良く過ごそう」。微笑む彼に首を振る。今日、黙って病院行ってきた。1年後、私たちは2人でいられない。「えっ、余命宣告!?」。彼の手を取りお腹に重ねる。来年の今頃は、2人じゃなくて3人だから。

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「恋人と過ごす最後の師走だ」。彼女が呟く。10年前の高校時代はただの先輩後輩だった。遅れて彼女が卒業し、関係性が変化する。デートも旅行も初めてだった。涙が滲む。僕らはまた変わるのだ。「悔やんでいるの?」。いや。その先変わらずいられることへ嬉し泣きだよ。年明け、彼女は僕の名前になる。

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内輪で挙式し、賀状は花嫁写真にした。けじめと考え、大学時代の元カレにも差し出した。別れた後の7年間、年1度だけやり取りしてきた。けれど今年は届かない。共通の友人から、年明けにLINEがある。「同時期だから元サヤかと思ったよ」。元カレの賀状写真が添付されてた。知らない新婦が笑っている。

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そうだ、宛先不明で戻ってきたんだ。年末に、今年の賀状の束を見直した。7年間、大学時代の元カノと、年1度だけ近況を伝えあってきた。去年、僕の葉書は戻ってきた。彼女からは届けられ、新住所に僕は再送しなかった。「君も幸せ掴んでね」。短文付きの絵葉書で、知らない男の花嫁が、微笑んでいる。

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