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「孤独で死にたい」。SNSでまた匿名の「死にたがりちゃん」が呟いた。陽キャを演じることに疲れたそうだ。彼氏に相談してみなよ、と助言する。「優しい彼は明るい私を好きだから」。夜の返事を読みながら、交際中の同級生の笑顔を思う。実は正体に気づいてる。僕が彼女を苦しめてるなら、身を引こう。
「少し待って」と彼が言う。スマホでSNSのアプリを立ち上げた。高校の帰り道、その様子を笑顔で見つめる。わかってる。匿名垢の「死にたがりちゃん」を励ましたのだ。優しさに、切なくて涙が滲む。ポケットでスマホの通知が小さく響いた。彼はいつ気づいてくれるのだろう。死にたいほどの私の孤独に。
飲みを断り、仲いいなと同僚に冷やかされる。17歳の娘からは「ママには内緒ね。昨日のイヴは彼とデートした」とLINEが届く。バイト代でケーキを買って帰るらしい。僕は花を見繕う。クリスマスは特別だ。食卓を家族で囲む。笑顔で過ごす日常の、尊さを再確認する。さあ帰ろう。愛する妻子が待っている。
クリスマスが特別だったのはいつまでだろう。夫とつきあい始めた大学時代、バイトで会えずに涙ぐんだ。高校生の一人娘が帰ってくる。今年の聖夜も過ごす相手がいないらしい。「いただきます!」。夫の帰宅を待って、3人で食卓を囲む。笑顔で健康、仲がいい。私は気づく。特別はありふれた日々にある。
雨でした、と外を見に行き私は告げる。マスターは苦笑した。イブの深夜、古いバーは女子大生のバイトの私と10歳上の彼だけだ。「帰っていいよ」と彼が言う。カクテルを注文し、酔ったふりして告白した。私のキスに「お客さん来るかもよ」と彼が戸惑う。来ませんよ。扉の札、さっきCLOSEに変えました。
イブなのに深夜の雨で客が途絶えた。「暇ですね」とバイトの女子大生が苦笑する。2年前、父が急死し、30歳で会社を辞めて古いバーを引き継いだ。帰っていいよ、と彼女に告げる。美人だし、聖夜は予定があるに違いない。「じゃ仕事上がりますね」と微笑む彼女が腰かける。「カクテル下さい、客として」
酔って帰宅し、夫が布団に倒れ込む。また接待だったのだ。「だらしない。ママ、高校時代、どこを気に入ったのよ?」。高2の娘が呆れてる。文武に秀で、10キロ痩せてて格好良かった。気障な台詞も様になった。「詐欺だね、まるで」。娘に頷き夫に水を運んでいく。でもね、ママは詐欺師も大好きなんだ。
遅くに目覚めて本を読む。部屋が散らかってるのは気にしない。好きな映画を見に行こう。惰性だね、と言い合って、同じ30歳の彼女と別れた。5年つきあい、最後の2年は同棲してた。気ままな日曜日は久しぶりだ。一人シートに腰を掛け、スクリーンを眺める。コメディなのに、泣けてくるのはなぜだろう。
温泉街をぶらぶら歩く。土産物屋を冷やかして、老舗の宿で湯に浸かる。夕食は山海の美味。一人旅は最高だ。30歳の誕生日、話し合って5年続いた彼と別れた。布団にくるまり考える。好きな仕事も貯金もある。友だちだって少なくない。大丈夫、私は独りで頑張れる。自分を鼓舞し、溢れる涙を何度も拭う。
「綺麗だけど性格キツ過ぎ」。高校でまた男子に陰口叩かれた。美人との自覚はない。不愛想なのは臆病者の自己防衛だ。親が厳しく居場所がない。本当は誰かに受け入れられたい。「陰口やめろよ」。隣の男子がさっきの男子をたしなめた。やはり放課後、勇気を奮おう。ねえあんた、私を彼女にしなさいよ。