掌編小説（140字）＠単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ

高２の彼が煮え切らない。私が好意を匂わせてるのに、ほかの女子を眺めてる。まあいいや。泳がせてあげるわよ。「俺が言うのも何だけど、余裕あるな」と彼が言う。秘密にしてる「力」があるんだ。10年後の一瞬だけ、好きな相手の視線が見える。花に包まれ微笑む私を、礼服の彼が潤んだ瞳で見つめてる♥

忘年会で息を飲む。元カノが座敷にビールを運んできた。大学卒業直前、口喧嘩して破局した。確か「実家は飲食店」と言っていた。手伝ってるのか。幹事は僕で会社近くの居酒屋にした。迂闊さと消えぬ未練で酔いが回る。仏頂面で会計され、お釣りと紙片を渡された。うん、手書きの割引券？　「次回半額」

忘年会が憂鬱だ。予約した幹事が大学時代の元カレなのだ。口喧嘩を拗らせて、卒業間際に破局した。不参加じゃ駄目かなあ？　「中座も駄目」。私は深くため息つく。就職先を２年で辞めた。「あの時約束しただろう？」。パパが私に駄目を押す。実家にいさせてもらう条件、確かに家業の居酒屋のお手伝い。

編集者に育児漫画を打診される。大学時代、少女漫画で賞を取り、連載した。徹夜続きで消耗し、もう辞める、主婦したい、と同棲相手に求婚した。拒まれて、就職先で夫と出会い娘を授かる。元カレはギターの夢を追っていた。最近ネットでバズってる。打診に頷き私は思う。今度こそ夢と家族を両立させる。

７年ぶりの新刊だった。書店で彼女の本を見る。大学時代の同棲相手。僕はギター、彼女は漫画の夢を追う。在学中、本を３冊出したのに「結婚し、君を応援したい」とペンを折る。才能に嫉妬して、僕は彼女に別れを告げた。もう一度、夢を追っているのかな……。本を手にして切なくなる。新刊は育児漫画。

「パパうるさい！」。暗譜できたか確認すると、一人娘に煙たがられる。中学の合唱祭。ピアノを演奏するので有休取った。「親の心配、ありがたいだろ」と指揮の男子にたしなめられてる。頬を染めた娘を眺め、思春期か、と今さら気づく。片親だから過保護だった。もう来ない。代わりに彼氏を連れてこい。

「母ちゃん恥ずい！」。一人息子に叱られる。中学校での合唱祭。指揮するならばと半休とった。いっぱしの口きくね。「そうだよ、誰のおっぱい吸って育ったの？」。私が言おうとしたことを、ピアノの女子が口にした。息子は顔を赤らめる。片親だからと気負ってきた。成長したね。次から私は遠慮するよ。

シャイな彼と視線が重なり逸らされる。綺麗になろうと頑張った。モテ始めたけど、仙人みたいな彼には響かない。高校を出て12年。いくつか恋もしたけれど、常に胸には彼がいた。同窓会で再会し「実はずっと好きだった」と囁かれる。仙人はやめたんだね。「30歳を一途に迎え、今日魔法使いになったんだ」

同窓会に彼女は来ていた。高校時代に憧れて、諦めた美少女だ。「精一杯頑張って、今はせいぜい美魔女だよ」と酔った彼女が苦笑する。「最近は失恋ばかり。老いた魔女には力がない」。僕はずっと好きだけど。「……グッときた。君は魔法が使えるみたいだ」。うん。一途なまま、今日30歳を迎えたからね。

照れた彼女がコートを脱ぐ。クリスマスのカラオケ店。絶対Sだと思ってたけど、高校でエッチなサンタを頼んだら、コスプレ姿で現れた。ミニスカで胸のあいた上半身。激萌えだ。トナカイの帽子をかぶった俺が彼女に触れると、拒まれる。「聖夜だし絶対スケベなことなしね❤」。……やっぱお前、ドSだな。