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死ぬ気で足に紐を巻く。17年生きてきて、いいことは何もない。親には殴られ、好きな彼とは会話もできない。深夜、橋上から川面に向かい身を傾ける。そこで腕を掴まれた。「俺で良ければ話を聞くぜ」。彼がいた。カッターで紐を切ってくれる。初めて死ぬ気を出してみた。初めて生きたい気持ちになった。
パパとママが喧嘩している。私、小学校で習ったよ。仲良しが一番だって。ママ、たまにはお洒落し、外で気晴らししてきなよ。パパには、クリスマスに妹がほしい、と言ってみる。2人もほしがってたよね? もっと私が小さい頃、パパとママはいつも笑っていた。妹ができたなら、また家に笑顔が戻るよね?
妻との喧嘩を拗らせた。お互い意地張り謝れない。7歳の一人娘が部屋に来る。「クリスマスにほしいものある」。何? 「妹」。……当面無理かな。「絶対ほしい」。ママは何て言っていた? 「少し時間がかかるけど、いいよって」。やり直す気なのか……。居間にいる? 「ううん、お洒落し出て行った」
右にベース、左にギター。背後から男子2人を見るのも最後だ。3人の進路は別々。私が切り出し、バンドは高校の卒業ライブで解散する。2人を好きだ。ずっと一緒にいたかった。でもそんな我儘、神様は許さない。涙を堪え、惜別のドラムを叩く。黙っていよう。半月前、難病で余命5年を告げられたこと。
「寄ってくか」と奴が言う。5年ぶりだな、と頷いた。バンドを組んでた高校時代、そのスタジオに通い詰めた。俺はギター、奴はベース。今日はともにレンタルだ。なあ、彼女に惚れてたろ。「お前もな」。さっきの通夜では耐えたのに、追悼曲を奏で始め涙が溢れる。病死はねえよ。もうドラムは響かない。
私の頬には痣がある。30年前、酔った実父に殴られた。私を連れて家を出て、母は再婚、名が変わる。ある夜、泥酔し道に倒れた老人を見た。「病院? いいよ、俺は社会に何も残せてねえ」。私は痣を揶揄され、弱者に寄り添う救命医を志望しました。実父と同世代のあなたもきっと、社会に何か残してます。
30年前、酔って幼い娘に手をあげた。頬に痣ができ、妻は子を連れ家を出る。職を失い発病し、路上で最期は俺らしい。「病院行きましょう」。女に声をかけられる。テレビで見た。いいよ、あんたと違い、俺は何も社会に残せていねえ。「そうですか?」。凄腕の救命医の微笑む顔に、娘とよく似た痣がある。
頬に涙が滲んでる。妻との挙式以来、10年ぶりの再会だった。独身のまま結婚プランナーを続けたらしい。交際中の高校時代、「結婚式は笑顔で迎え、最期まで笑っていようね」と約束した。プロとして笑顔で僕らを祝ってくれた。今度は僕が約束守る。病死した元カノが微笑むよう、納棺師として化粧を施す。
結婚式は笑顔で迎え、最期まで笑っていようね。高校時代に約束した元カレを思い出す。大学で距離ができ、別れてしまった。独りでも、仕事があるから大丈夫。新たな客との顔合わせで息を飲む。可愛い彼女を連れた元カレだった。大丈夫、私はプロだ。挙式では必ず笑おう。ウェディングプランナーとして。
切なげにパパが文学賞のニュースを見てる。中小企業の営業マン。本とは無縁の日常だ。ママが「未練を断つためよ」と囁いた。17年前私が宿り、パパは家族のため売れない作家を辞めたという。絶版の連作3冊がパパの全て。筆名の文庫を探し、気づかぬふりで私は呟く。パパ、この人の4巻目読めないかな?