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「子どもはいらない。拒否されても僕は平気だ」。半裸の彼が微笑んだ。これまでの男たちは、拒むと大抵私を捨てた。秘密だが、幼い頃、父にいけないことをされてきた。行為と汚れた自分に対する嫌悪感を拭えない。「気長に待つ」。笑う彼に私は浄化されていく。初めて思う。この人にならば抱かれたい。
子どもはいらない。僕が言うと、恋人たちは全員去った。内緒だが、母に殴られ育てられた。同じことを我が子にしそうで怖いのだ。「なしでいいよ。私は君自身に惚れたんだ」。交際間もない彼女が笑い、僕を強く抱き締める。許され受容された感じがした。涙ぐみ、この子との子どもがほしいと初めて思う。
また口のきけない女子が増えた。知らぬ間に近づかれ、好意を抱かれ、告らぬままに泣いて僕から去っていく。「片想いの自滅ですよ。先輩は悪くありません」。高校の後輩女子に慰められる。強く優しい後輩に、僕は次第に惹かれていく。彼女はずっとつかず離れずだ。自滅に怯え、僕もほどよい距離をとる。
高校の先輩はよくモテる。けれど誰も彼を独占できず、やがてみんな疲れ切り、泣いて立ち去る。繊細で悪気はないから、彼はそのたび落ち込んだ。ついに誰もいなくなり、慰め役の私は想いを告げる。「お前、強く優しいな」。先輩が苦笑した。臆病ですよ。小狡いんです。ライバルの自滅を待っていました。
秋祭りで彼女を見る。僕に気づくと舌を出し、隣の弟の手を引き消えた。「高校の片想いの子?」。ああそうだ。「諦めな。弟くん、重度のシスコン。彼女もブラコン気味だ」。なぜわかる? 「普通、きょうだいそろって浴衣でお祭り行かないよ」。だって姉貴も浴衣だろ。「……だから、私もそういうこと」
働くことを妻は望んだ。家事と育児は仕事の傍ら僕が担った。娘が巣立った翌年、あっけなく妻は事故死した。結婚って何だったのだろう。学生時代の初恋相手を通夜で見かける。僕と別れ起業家と結婚し、専業主婦になったらしい。去年、新聞に夫の訃報が載っていた。幸せだった?とやつれた顔に僕は訊く。
学生時代の元カレと入籍した。物足りないと思った口数も、今はむしろ好ましい。なぜこの穏やかな幸福を、あの頃、尊べなかったのだろう。荒波に浮かぶ小舟のような人生だった。悔やみつつ、舟を降りる勇気がなかった。あと残りは何年だろう。子どもは巣立ち、夫を看取った。初恋を40年ぶりに取り戻す。
「恋煩い? 高校の女の子?」。二つ上で19歳の姉が訊く。幼い頃から変わらず優しい。涙を流す僕の体を姉がそっと抱き締める。「お姉ちゃんが力になるよ」。両親は外出中だ。さっき、姉貴にはどうしようもできねえだろと呟いた。唇が目の前で濡れている。地獄に堕ちる覚悟を決め、僕は言葉を撤回する。
2歳差で17歳の弟が、恋煩いしてるらしい。幼い頃から姉の私になついてた。弟を苦しませるのはどんな子だ。「姉貴にはどうしようもできねえだろ」。涙を流す弟をぼんやり見つめる。両親は外出中だ。跳び越えよう、と私は思う。切なくて自分が壊れる。抱き締めた弟に囁いた。お姉ちゃんじゃ駄目ですか?
二人での帰り道、男子高時代の悪友と偶然会う。可愛い彼女連れてんじゃん、と冷やかされ、いや妹、と俺は答える。自宅に戻り、ベッドに倒すと「やめて」と拒まれた。誘ったのそっちだし、最初でもないじゃんか。「ふうん、妹なのに抱くんだね」。……怒ってるのか、さっきのこと。ごめん、妹と偽って。