掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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失恋を慰めてくれた大学の後輩が、「スポーツと同じですよ」と服を脱ぐ。以来何度も抱き合った。後輩は何も求めない。ただ重なり、談笑して帰っていく。1年後、元カノに復縁を迫られた。「じゃあ私も次の対戦相手探します」。笑顔で立ち去る背中を見送り、僕は思う。失恋よりもなぜかずっと心が痛い。

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兄にはイケメンの自覚がない。三つ下で女子高通いの私は遠ざけ役だ。兄にはドSと思われてる。内緒にしてた文化祭のメイド喫茶に現われ、同級生にチヤホヤされてた。女子を押しのけ、メイド姿で兄の顔を睨みつける。「どうする気だ、そのケチャップ?」。……たまには素直に接するよ。萌え萌えきゅん❤

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三つ下の妹が女子高の文化祭でメイド喫茶をやるらしい。復讐だ。兄にドSの妹のメイド姿を冷やかそう。密かに訪ねた教室で、妹の同級生から黄色い声を沢山浴びる。「イケメン言われていい気になるな」。メイド姿の妹が同級生を遠ざけた。ドSめ。そのケチャップ、どうする気だ。「……萌え萌えきゅん❤」

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「今日で息子は9歳」。SNSで彼が呟き、多くのいいねを集めてる。子煩悩で愛妻家。誰もがほっこりする投稿ばかりだ。「ママ、見ちゃ駄目だよ」。14歳の娘に慰められる。わかってる。でもこのやるせなさが興した会社を伸ばす力になっている。初婚みたいに振る舞う彼には、10年前に捨てた妻と娘がいる。

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高2の女子が保健室を訪れる。微熱で寝ている同級生を見舞うためだ。カーテンの隙間から2人を眺め、養護教諭の私は気づく。微熱の子が片想いしてるの、見舞いの女子だ。2人が顔を寄せたところで割り込んだ。昼休み終わり。戻りなさい。残された7歳下の少女が俯く。私はこの教え子に想いを言えない。

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女子高の保健室で横になる。様子を見に来た同級生が、額に手を当て顔を寄せた。「熱で辛そう。頬赤い」。どうしよう、と迷ったところで養護教諭の声がする。「昼休み終わり。戻りなさい」。彼女を見送り無様に胸をなで下ろす。危うく風邪を移しかけた。うん辛い。熱よりも、キスしたいほどの片想いが。

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彼女は「いいよ、先輩」と目を閉じた。高校の一つ下。初めてだから僕は勝手がわからない。「あっ……せん……」。小さく喘ぎ、後輩は言葉を飲み込んだ。やっぱり本当だったんだ。今はいい。でも絶対、体だけじゃなく心まで手に入れる。言いかけたの「先輩」じゃなく、失恋の噂が流れた「先生」だよね。

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高校の恋人未満の先輩に、求められる。投げやりな気持ちで私は応じた。目を瞑り、全身の力を抜いて、ぎこちなく触れられる。「どう? いい?」。囁かれ、私は思わず、せん……と呼びかけた。満足そうな彼の顔が頭に浮かぶ。ごめんなさい。想っているの「先輩」じゃなく、失恋したての「先生」なんだ。

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「大学受験に専念できますね」と後輩が微笑んだ。明日の文化祭終了後、僕は生徒会を引退する。2人で準備を進めてきた。ごめん、夏休みにも作業させて。呟く僕に俯いて、彼女は泣いた。恋も遊びもしたかったに違いない。辛い思いをさせてしまった。もう時間を奪わない。初恋は片想いのまま終わらせる。

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「やっと明日か」。準備作業の手を休め、先輩がため息つく。高校の放課後の生徒会室。高3の先輩は文化祭後に引退だ。「夏休み返上だったし、お前も災難だったよな」と苦笑している。俯いて、私は声を詰まらせた。「泣くほど辛かったのかよ」。違います。ずっと準備が続けばいいな、と思ってるんです。

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