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二人での外出中、女子高時代の友だちと出くわした。格好いいね彼氏さん、と黄色い声をあげられて、いや兄貴、と私は照れる。予定通り映画を見て、食事をし、公園でキスをねだってみせた。「絶対しねえ」。何よ、その塩対応。「だって俺はお前の兄貴なんだろ?」。……拗ねてるんだね、本当は彼だから。
10年前、妻が娘と家を出た。蓄えを食い潰し、手の震えを酒で鎮める。俺は弱い。「外資のエリートだったんでしょ? お酒のせいだよ」。酒場で会った20歳の少女が、洗濯物をとりこみかけて姿勢を崩す。咄嗟に支え、俺が落ちた。追わなかったのは妻子のため。少女に娘も重ねてた。守れて死ぬなら本望だ。
若い女のアパートから落ちたらしい。酒と女にだらしなく、私は10年前に家を出た。籍だけは抜いてない。20歳を迎えた一人娘は「あんな男、存在しなきゃよかったんだ」と吐き捨てる。喪服姿の私を見て「葬儀行くの?」と驚かれた。行くよ。夫は確かにクズだけど、不存在なら私はあなたに出会えなかった。
咄嗟に雑誌で虫を叩いた。「……強くなったな」。夫がきまり悪そうに頭をかく。交際したての10代みたいに生き物には怯えない。魚も捌ける。別の命と1年近く一緒に過ごした。離れ際には出血した。ねえ、臆病な少年少女のままだと、私たち、大事なものを守れないよ。雑誌の先で幼い娘が寝息をたててる。
魚を捌き、害虫を叩き潰す。ママは逞しいけど、高校生の娘としては少し引く。ね、17歳でパパとつき合う前から今みたいだったの? 「ドジョウや蝉で悲鳴あげてた」と笑ってる。じゃあパパに鍛えられたんだ。「パパはいまだに生き物苦手」。なら誰に? 「お腹に宿った小さな命にママは一番鍛えられた」
3年ぶりに幼なじみが帰ってきた。また失恋したらしい。高卒後、彼女は都会、僕は地元で進学した。秋祭りに誘った彼女は「恋したいけど、気安く話せる相手も大事だね」と笑う。僕は頷き、浴衣の彼女を盗み見た。綺麗になったな……。僕はいつまで、彼女のことを「気安く話せる相手」と思えるのだろう。
結婚式の挨拶で親友が泣いていた。新婦の私が隣を見ると、新郎も目を潤ませてる。私たちは大学時代に3DKをシェアしてた。卒業後、彼を口説き落として部屋を出た。「喧嘩したら戻ってきなよ」。冗談めかした挨拶に、私は頷き心で誓う。喧嘩はしない。2人の涙で気がついた。あなたの想いと彼の未練に。
大学の後輩が泣いていた。1年前、元カレと別れた後、私の家とも近いこの公園で何度か見た。「寝るのはスポーツ」と公言するから、彼女はある意味有名だ。その割にここ1年は異性の噂を耳にしない。そういうことか、と私は気づき、LINEを送る。愛を知った少女がいます。君への復縁要求は取り下げます。